マッサージ

日本人によるタイ古式マッサージが心を溶かすというお話し

初めてタイを訪れたのは、2011年の3月になる。もちろん忘れはしない。大震災が起きた日、私はタイのチェンマイにいた。

 

東京の渋谷にマッサージ店をオープンしたが、1年と持たずに閉店し、その傷心旅行も兼ねてチェンマイのマッサージスクールに通っていた。日本中が悲しみと混乱に包まれる中、いくばくかの後ろめたさを感じながらも、私はどこか日本の古き良き時代の懐かしさ(その時代を生きてはいないが….)を感じるチェンマイの穏やかな雰囲気に癒されていた。

 

チェンマイのマッサージスクールで1か月ほどタイ古式やオイルマッサージを学んだのち、日本への帰国が困難だと感じたため、さらに2週間ほどタイに残ることにした。チェンマイからバンコクに移動したあとも、街の格安マッサージ店、マッサージスパチェーン、高級マッサージスパと、ありとあらゆるタイ古式マッサージを受けに行った。

 

とにかく安村。失礼、特段明るくはないが、とにかく安い。いや、街の路面にある格安マッサージ店にいたっては、店前にショッキングピンクやロイヤルパープルの制服をまとった大勢のスタッフが、道行く観光客を物色するように視線のレーザービームを浴びせてくる光景たるや、とにかく明るく眩しいとも表現できそうだ。街のマッサージ店だと、タイ古式60分を200バーツ(約600円)程度と、日本の1/5~1/10の値段で受けられる。ちょっと小綺麗なマッサージスパチェーンでもタイ古式60分1,500円、一軒家スパやホテルスパでも3,000円強といったところだ。←この辺りのマッサージスパになると、日本の高級ホテルスパに匹敵するほど、いや、それ以上のサービスを受けることができる。タイという国は、貨幣価値の高い国の人にとっては、とんでもなく安い値段でマッサージをむさぼるほどに受けることができる、まさにマッサージパラダイスなのである。―― とはいえ日本も、物価の高い欧米先進国から見ると、マッサージパラダイスと言われているかもしれないが….

 

ここまでの話を聞くと、「マッサージ天国で受ける本場のタイ古式なんて、絶対に気持ちいいじゃん!」と感じるだろう。・・・否。それがそうでもないのだ。確かに、中価格帯以上のマッサージスパの雰囲気やサービスに至っては、日本の通常店とは比べ物にならないほどのコスパの良さがある。が、しかし、”マッサージの気持ち良さ”だけに焦点を絞ると、「はにゃ?」「うげっ!」と思うことがある。この「はにゃ?」と「うげっ!」こそが、私が日本人セラピストによるタイ古式マッサージが本場を凌ぐ気持ち良さと最高のポテンシャルを秘めていると感じている理由だ。

 

念のため断っておくが、私はレイシスト(人種差別主義者)ではないとこはご理解頂きたい。2011年に初めてタイを訪れてから6年連続で再訪しているほど、その人柄・風情・マッサージ・料理のすべてに魅せられている。決して無条件愛国主義者的に日本人が素晴らしいとも思っていない。それでもなお、日本人セラピストによるタイ古式マッサージがいかに素晴らしいと感じているかを、素直な気持ちで語りたい。

 

ASIAN RETREA TオーナーTaroTaro
米大スポーツ経営学部卒。北海道出身。高級スパ・Google六本木ヒルズオフィス・Kバレエカンパニーでのセラピスト業務、サロン経営を経験後、貿易商社に転職。アジア各国の素晴らしいマッサージ文化と気持ちいいマッサージを皆さまにご体験いただき、心の拠り所となる癒しのリトリートの提供を目指し、湘南エリアにASIAN RETREATを開業予定。

 

日本人セラピストによるタイ古式マッサージがいかに心を溶かすのか

マッサージを受ける最大の目的といえば、筋肉の凝りや張りを解(ほぐ)して体の疲れや痛み取ることだろう。さらに求めるとすれば、リラックスできる空間で気持ちいいマッサージを受けて、心の疲れを解(と)く、といった具合だろうか。私はそれらに加えて、タイ古式マッサージには人々の心を溶(と)かす神秘的な力があると感じている。

 

単純にタイ古式の経験値や手技の豊富さで言えば、圧倒的にタイ本場のセラピストの方が上だろう。しかし、一見派手に見えるタイ古式マッサージの本当の魅力は、パワフルな指圧でも、ヨガのようなアクロバティックなストレッチでもない。

 

手の温もりと温かな心によるふれあいこそが、タイ古式マッサージに魅了される人々が心の奥深くで求めていることに違いない。

 

シンプルで丁寧な施術がタイ古式マッサージの気持ち良さを倍増させる

「2人でやるヨガ」とも称さるタイ古式マッサージは、どうしてもアクロバティックなストレッチに注目されがちだ。「そんな体勢でストレッチするの?」といったような、クライアントにとってもセラピストにとっても、なかなかヨギーな姿勢で施術を行っていく。特にタイ古式に強いこだわりを持ったセラピストや、覚えたてで様々な手技を試したいセラピストは、これでもかというほど多種多様なストレッチを織り交ぜてくることが多い。見た目は派手で美しく見える一方、解剖学的に見ると、「ハムストリングスどんだけ伸ばすの?」「内転筋のストレッチはもっとシンプルな方が効果的じゃない?」といった感想も当然にように生まれてくる。セラピスト側もヨガを行うという観点があるため、クライアントにとって必要のない動きも多々ある。また、指ではなく肘や足を多く使って、セラピストの負荷を軽減させるという目的も含まれる。

 

タイで本場のタイ古式を受けると(特に街もマッサージ店)、ありえない急発進でありえない角度に体を捻じられて、「あっ、腰、終わったな….」となることが、まずまずの高確率で起こる。富士急ハイランドのド・ドドンパで首をやる確率を遥かに凌駕しているはずだ。日本でそこまで危険なタイ古式に出会う確率はほぼないので安心してほしい。

 

本当に気持ちいいマッサージというのは、至極シンプルである。なぜなら熟年の知恵と経験を持つセラピストは、より効果的で効率の良い手技に絞って無駄を排除していくからだ。そうして洗練された手技は、非常にシンプルかつ気持ちが良い。日本人はかねてより、器用な手先を駆使してシンプルな単純作業を丁寧にこなすことを得意としている。かつて日本人女性たちの活躍による製糸業で世界を圧巻したように、日本人セラピストの丁寧なマッサージ技術は、間違いなく世界に誇れるものである。

 

繊細な気づきがタイ古式マッサージに一体感を与える

タイでのマッサージは、激しいストレッチ以外にも、「何かの憎しみをぶつけてるの?」というほどに乱暴で激痛のエルボー攻撃を仕掛けられることがある。この鋭利な肘を突き刺されたら最後、揉み返しでは済まない打撲レベルの副反応に備える必要がある。日本でも拷問系の整体や足つぼなど、サディスティックなセラピストがいることは否定できないが、良くも悪くも日本は繊細な人間の割合が世界でもっとも高い国の1つだろう。この繊細さが、マッサージには大いに役立つ。痛みは限度を超えると不快でしかない。確かに痛みには依存性があるが、本来なら7/10程度の痛気持ちいいレベルのマッサージで十分であり、それが最も効果があるとされている。「これは痛いかな?」「これ以上のストレッチはきついかな?」と感じ取れる繊細さが、タイ古式マッサージの質を高めるのに重要なのだ。

 

「気づかい」や「おもてなし」の心も、タイ古式のレベルを飛躍させる。「寒くないかな?」「苦しくないかな?」「くすぐったくないかな?」などと、些細なことにも気づき対応できるかどうかで、お客様にとってのマッサージの心地よさが変わってくる。ちなみにタイのマッサージスパ店内は、例外なく凍えるほど寒い。私が考える理想のタイ古式マッサージは、技術の高さや手技の豊富さではなく、手と心を通した温かなふれあいによる、心を溶かすような施術だ。そして、繊細な気づきと丁寧な施術を得意とする日本人セラピストは、世界一気持ちが良く一体感のあるタイ古式マッサージと心を溶かすほどに居心地の良い空間を提供する能力に長けている。

 

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タイ古式マッサージは、どのマッサージよりもセラピストとクライアントの距離が近いマッサージだ。その分、二者の相性や波長次第で、タイ古式マッサージ体験が最高のものになるか最低のものになるかを大きく左右する。本場のタイ古式を受けたことのある方も、タイ古式が未経験で不安の方も、ぜひ一度日本人セラピストによる丁寧で繊細なタイ古式マッサージを受けてみてはいかかだろうか。セラピストとの一体感を感じられた時は、まさに心が溶けるような体験を味わうことができるだろう。

 

 

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